小さな世界 第3話


小さな彼の衣服は、スーツも、靴も、下着も、どれもが小さく、洗う時に無くしそうだったので、空のミネラルウオーターのペットボトルに少量のぬるま湯と洗剤を入れ、ガシャガシャと振って洗った。
部屋に戻ると彼は箱の中のバスタオルに身を沈めぐっすりと眠っていた。
肉眼でも解るほど顔色は良くなっている。
手に持った小さな衣服を見て、吊るして干すのは無理だなと、洗いたてのタオルの上に並べて、簡単に水分を取ってから、ドライヤーで乾かす事にした。何せ今日は大雨。このままではなかなか乾かないだろう。
まだ若干湿ってはいるが、どうにか全部無事に乾かすと、それらを畳み、僕はノートパソコンに向かった。
カメラの位置や倍率を調整し、彼の寝顔を画面に映し出す。
タオルからわずかに覗いている寝顔は穏やかだった。
それとは別に、録画していた方を再生すると、ちゃんと録画もできているようだ。こうして拡大された映像で見ると、若干左足を引きずっているのが解る。折れたわけではなさそうだが、捻ったのかな。どうやって手当てをすればいいのだろう。包帯もシップも彼の体には大きすぎる。
・・・彼、か。
あまりにも綺麗な人だから、低い声の女性かもしれないと、少し期待をしていたが、あっさりと僕の前で服を脱ぎ出したときから、やっぱり男なのかなと思い始め、自分と同じ物がついているのを見て、ちょっとだけガッカリしたのは内緒だ。
同じ男とは思えないほど線が細く、肌の白い彼の背中や腕には、肉眼では気付かなかったが痣がいくつもあった。
あの箱の中にいたことでついたのか?
だが、この痣の跡は竹刀でついた痣にも似ている。
何かで殴られた跡だろう。
そもそもどういう経緯であの箱の中にいたかは知らないが、自分の意思で入ったのでなければ、何者かに暴行を受け、意識を無くした後押し込められたという事だ。
小人の世界の犯罪。
きっちりと衣服を着ていたから、そっち方面の暴行は無かったようだが、それでもこれだけの美人に手を上げるなんて許せなかった。いや、もしかしたら小人は皆彼のように美しいかもしれないから、美醜で判断するのは間違いか。
・・・それにしても、僕がスプーンですくった水に口をつける姿が妙に・・・駄目だ、相手が男だって事を忘れそうになる。
ふと見ると、リアルタイムで映している画面の彼がもぞリと動いた。
目を覚ましたようで、僕は慌てて再生していた録画分を閉じた。

「目が覚めた?」
「・・・ああ」

先ほどよりもしっかりしているが、まだ若干だるそうな声音で彼は答えた。
もぞもぞと、体を起こし、タオルを巻く。
この蒸し暑い中でもタオルをしっかり巻くのだからやはり寒いのだろうか。
あれだけ堂々と裸になったのだから、恥ずかしいということではないはずだ。
体の差がここまで違うのだから、体感温度が違うのかな。

「どのぐらい寝てた?」
「1時間ぐらいかな?」

僕は時計を見ながら答えた。

「そうか。ところで、名前を聞いていなかったな」

彼にそう言われて、そう言えば僕も聞いていなかった事に気付いた。

「スザクだよ。枢木スザク。君は?」
「ルルーシュだ。スザク、俺はどうしてここに?」

当然の質問だなと、僕は頷くと、洗って乾かしていた宝石箱を手に彼の傍に移動した。

「何だその箱は?」
「君が入ってた箱だよ。見覚え無いの?」
「無いな」
「たまたま僕がこの箱を川原で拾ったんだけど、開けたら君が入ってたんだ」

宝石箱を彼の前に置くと、興味津々と言う顔で宝石箱を調べ始めた。
タオルが重くて動きにくそうだなと思いながらも、彼が調べるのを手伝っていると、彼が小さくくしゃみをした。

「君、寒いの?」

梅雨の時期、蒸し暑くてスザクは半そで、ハーフパンツだ。クーラーは入れていないため、扇風機が頑張っているが、正直額に汗がにじんで蒸し暑くて仕方がない。だが彼はスザクとはまるで違う空気の中にいるかのように身を縮めていた。

「ああ、少しな」

寒そうにタオルを掻き抱く姿に、僕は眉を寄せた。

「風邪引いたのかな。何か衣服があればいいんだけど」

ドライヤーで軽く乾かしたとはいえ、まだスーツは若干湿り気を帯びていて、これを着せる訳にはいかなかった。
恥ずかしいけど、背に腹は代えられないかな。
僕は、よし行ってこよう。と、立ち上がった。



どう考えてもスザクは監禁盗撮をしている犯罪者にしか見えません。

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